2023/10/25 18:12
リーズナブルな“シェルチェア”を手に入れるには
ミッドセンチュリーを代表する家具といえば、イームズのシェルチェアです。シェルチェアは1950年に初めて生産され、70年以上経った今も、いまだに現役で正規品が作られています。現在購入できる正規品は、ハーマンミラー社製のもので、表面がザラザラとしたPPP製(ポリプロピレン)のシェルチェアと、初期に使われていた素材FRP製(ガラス繊維強化プラスチック)の2種類が販売されています。
PPP製は安価ですが、それでも正規品の価格は10万円近くします。イームズが好きで好きでたまらないという人であっても、気軽に購入できる価格ではありません。
でもあきらめることはありません。イームズの世界観をリーズナブルな価格で取り入れることができる、「リプロダクト品」という選択肢があります。
リプロダクト品とは、意匠権が切れたデザインを使った商品のことです。シェルチェアをはじめとするイームズの家具も意匠権が切れ、数多くのリプロダクト品が販売されています。薬の世界でジェネリック薬品があるように、違法なコピー品とは違い、優れたデザインを継承した商品といえます。
一口にリプロダクト品と言っても、数多くの商品が販売されているので、どれを選べば良いのか迷ってしまいます。安価な商品を選んでも品質に問題はないのか?リプロダクト品の中でも値が張るものは、品質も良いのか?商品の写真や情報からだけではなかなかわからないものです。
例えばアマゾンで「イームズシェルチェア」と検索してみると3,000円台~3万円台と幅広い商品が出ています。イームズチェアが追求した機能性とデザインへのこだわりを、どこまで忠実に反映しているのか気になるところです。
イームズのシェルチェアの正規品とリプロダクト品を比べてみた
シェルチェアの正規品とリプロダクト品はどれくらい違うのか、正規品と、リプロダクト品を実際に購入して試尻してみました。リプロダクトチェアを選ぶ上で、価格による品質の違いは重要な要素なので、2つの価格帯のリプロダクト品を正規品と比べてみました。
比べてみたポイントは4つです。
- 1.シェル(座面の部分)のサイズ
- 2.ベース(脚の部分)のサイズ
- 3.すわり心地
- 4.仕上がり
1.シェル(座面の部分)のサイズ
まずはシェルチェアの最大の特徴である、座面から背もたれにあたる、シェルのサイズを比べてみました。比較したのは4つのサイズです。
=比べてみた結果=
全長と幅のサイズ(A~Cのサイズ)に大きな違いは見られませんでした。部屋に置いた時の印象は、正規品も、リプロダクト品①(10,000円台)も、リプロダクト品②(3,000円台)も、それほど変わらないといえます。ただ、大事な点で差がありました。シェルチェアは、座面のふちが高くなっており、おしりに向かって高さが下がっていく形状をしています。この座面のふちの高さ(Dのサイズ)は座り心地に影響する大事な要素ですが、正規品と比べてリプロダクト品②は1.5センチ低く、画像で並べてみても座面の高さの違いがわかります。リプロダクト品①は正規品と大差ありませんでした。
2.ベース(脚の部分)のサイズ
座った時の安定感につながるベース(脚の部分)のサイズを比べてみました。シェルチェアのベースには、様々なバリエーションがありますが、正規品もリプロダクト品も、最もスタンダードなワイヤーベースというタイプです。
=比べてみた結果=
AとBのサイズを比べてみると、正規品とリプロダクト品①は、後脚の幅に比べ前脚の幅が5センチほど広く設計されています。前脚部分には、座る人の2本の足の重さが分散してかかりますが、後脚部分には、全体重が集中的にかかるため、このような形状になるのが自然です。しかし、リプロダクト品②は両脚ともほぼ同じ幅です。
そして、Cのワイヤーが交わる高さに関しては、リプロダクト品②のみ正規品やリプロダクト品①よりも高い位置で組まれています。同じようなベースに見えても、リプロダクト品②は形状に違いがあることがわかりました。
一見しただけでは分からないポイントですが、見た目の印象の違いを生む要素になっています。
サイズの比較ではありませんが、ベースがシェルにどのように接続されているかについても比べてみました、正規品は円錐型の形状でボルトと接続されていますが、リプロダクト品は①、②ともに黒い部品を介して接続されています。普段は見えない部分ですが、見えない部分の「見た目」の違いがあります。
3.すわり心地
イスを選ぶ際に何よりも大事な、すわり心地を比べてみました。実は最も差が出たのが、すわり心地です。数字の差はわずかでも、すわり心地には大きな差が出ることがわかりました。
=比べてみた結果=
Aの座面の深さでは、正規品とリプロダクト品②で大きな違いがありました。正規品とリプロダクト品①は、膝裏からおしりに向かって4cmほどくぼんでいて、体にフィットするだけの十分な深さがあります。一方でリプロダクト品②はこのくぼみが2cmと浅く、丸みがありません。このくぼみが浅いことで、フィット感が甘くなり、安心感が少なくなっています。
Bの座ったときの傾斜角度は、体重をかけたときに、背もたれ部分がどれくらい傾くか、を調べたものです。これについてもリプロダクト品②には明確な違いがありました。腰のあたりにフィットする部分が、正規品とリプロダクト品①は腰にフィットするよう緩やかなカーブを描いており、背もたれに寄りかかると、適度なしなりがありながらもしっかりと支えてくれます。一方リプロダクト品②は、腰の部分が垂直に立ち上げっていて、深く座りにくい形です。さらに、背もたれに寄りかかると、しなりが大きすぎて、「わっ」と声をあげて驚いてしまうほどです。体を預けられる安心感がありません。
この背もたれのしなりの違いは、シェルの柔らかさの差によって生じています。その原因となっているのが、Cのシェルの厚みの差です。正規品とリプロダクト品①は、厚い部分が6mmありますが、リプロダクト品②は、5mmしかありません。これによって支えられる力に大きな差が出ています。
4.仕上がり
最後に、シェルとワイヤーの質感=仕上がりを比べてみました。まず、シェル表面の質感は、正規品とリプロダクト品①はざらざらしているのに対し、リプロダクト品②はツルツルしています。そのせいか、リプロダクト品②は、背もたれに寄りかかるとおしりが滑ります。
次に、ワイヤーの仕上がりを見ると、正規品は4本のワイヤーの溶接が2ヶ所に集約されているのに対して、リプロダクト品①と②は4本それぞれ別々の位置で溶接されています。リプロダクト品①は溶接部分にズレもなくキレイな仕上がりです。一方、リプロダクト品②の溶接部分は、多少雑な仕上がりです。
まとめ
このように、正規品とリプロダクト品①は概ね同じ形状をしていて、目に見えないベース部分や、シェルとベースの接合部分に差があるのみでした。
一方、リプロダクト品②は座面のくぼみの深さや、背もたれの傾斜角度、シェルの厚みなど、重要な部分に差が見られ、正規品とは形状もすわり心地も大きく違うものになっていました。
「シェルチェアの正規品とリプロダクト品を試尻して比べてみた(後編)」に続く
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