2023/10/04 15:27
名作イスの値段
イームズチェアは1950年代に設計され、現在までずっと販売され続けている現役の製品です。「販売されている=買いたい人がいる」ということですから、70年にわたって販売されているイームズチェアのデザインが、いかに優れており、いまだに色褪せていないかが分かります。
イームズチェアのように、歴史の評価を経て今もなお、価値を保ち続けているイスのことを名作イスと呼びます。名作イスには、イームズチェアのほかに、ル・コルビュジェのLC4、ミース・ファンデル・ローエのバルセロナチェア、アルネ・ヤコブセンのエッグチェアなどがあります。
モダンデザインの黎明期である1920年代から、そのモダンデザインがさらに一般市民に浸透していく1950年代の間に、数多くの名作イスが誕生しました。
こうした名作イスは、どれも高価です。
例えばLC4は70万円、(カッシーナ販売サイト:https://www.cassina-ixc.jp/shop/g/glc4/)
バルセロナチェアは100万円(Knoll販売サイト:https://www.knolljapan.com/knoll-studio/by-category/lounge-seating/barcelona-chair-relax.html )
と、簡単に手に入る価格ではありません。これら2つのイスは、革張りですので、高価な素材を使っていることも原因です。
一方で、イームズチェアはポリプロピレン(プラスチック)製です。安価な素材でできているので、LC4やバルセロナチェアに比べると大幅に価格は下がりますが、それでも5万円~10万円ほどです。ニトリやイケアで1万円のイスが購入できることを考えれば、やはり高価といえます。
イームズチェアの”隠れた価値”
名作イスの価格設定にはちゃんと理由があります。ただ高く売りたいから高価なわけではありません。イームズチェアは今でこそ世界中で知られたイスになりましたが、発売された当時は、従来のイスとはまったく違う、革新的なイスでした。素晴らしいデザインだという確信があったとしても、見慣れないイスを誰が買ってくれるか、まだわからなかったのです。
そんな中、デザインの価値を信じて、ハーマンミラー社やヴィトラ社といったメーカーが、イームズチェアに先行投資をしました。売れる保証がない中で、デザインに時間とお金を投じ、大量生産の機材を備え、在庫を持ち、店舗で販売できる体制を整えるなど、リスクをとったのです。
ハーマンミラー社は当時、高級木製家具を扱っていましたが、新しい家具の販売をする方向に経営のかじを切っていました。まだ小規模な家具メーカーであったにもかかわらず、社会の変化を掴むための「リサーチ」を、デザインのプロセスに取り入れるなど、家具の世界で変化を起こそうとしていました。
イームズチェアの販売価格には、こうした投資を回収するためのコストが乗っています。いわば、「イノベーション代」とも言えるコストです。もちろんイスを創ったデザイナーにも対価が支払われます。
これらを合わせると、正規品の価格はどうしても高価になってしまいます。
名作イスには、イノベーションを作り出すチャレンジに支払うコストが含まれているということです。
リプロダクトチェアの価値
しかし、一度作ったデザインの権利が、永遠に認められてしまうと、新しいデザインの余地がどんどん狭まっていってしまい、次のイノベーションの妨げになってしまいます。
そこでデザインの権利(意匠権)には制限が設けられています。
日本では、家具や服、車といった製品のデザインが最大25年間保護されることになっています。逆に言えば、25年たつと、この権利は消失してしまいます。
意匠権が失効した名作イスはいったいどうなるのか?
実は、だれでもコピーが可能になります。
こうした製品を、リプロダクトチェアや、ジェネリック家具と呼びます。
リプロダクトチェアは、意匠権が切れている製品のコピーですから、あくまで合法的な行為です。例えば、勝手にシャネルのロゴを入れて類似品を販売するような、いわゆる違法コピー品ではありません。
ただし、リプロダクトチェアを、「イームズのシェルチェア」といって販売することはできません。意匠権(デザインの権利)は切れても、商標権(製品の名前)は切れていないからです。あたかも正規品かのように、名前も形も真似をして売ることはできないわけです。
リプロダクトチェアの一番の特徴は価格です。シェルチェアの場合、正規品で7万円程度する製品が、リプロダクトチェアだと1万円台で手に入ります。クオリティは下がりますが、3千円台の製品もあります。
正規品の価格に含まれている、意匠権に関わるライセンスフィーや投資回収の上乗せコストがなくなることで、これだけのコストダウンができ、より多くの人がイームズの素晴らしいデザインを体験することができるようになります。もちろんリプロダクトチェアのメーカーのコスト削減努力も価格に反映されます。
正規品がリスクをとって新しいデザインの市場を開拓してきたことにリスペクトしつつも、素晴らしいデザインをただ眺めるだけではなく、日々の生活に取り入れる喜びを実現してくれるリプロダクトチェアには、大きな価値があると言えます。
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