リプロダクトチェアブログ

2023/10/04 15:21

「イームズチェア」とは、イームズの代表作「シェルチェア」


インテリアの雑誌やウェブサイトで頻繁に取り上げられる、デザイナーズチェアの代名詞といえば「イームズチェア」です。インテリアに関心がある人であれば、一度は聞いたことがあるイス業界のスーパースター。しかし実は、「イームズチェア」という名前のイスはこの世に存在しません。

じゃああの超有名な「イームズチェア」って何なのか?ですが、「イームズチェア」はあくまで通称。本当の名前は「シェルチェア」といいます。貝のような曲面をしたイス、だから「シェルチェア」です(シェルチェアにも種類があり、最も一般的なシェルチェアはサイドシェルチェア、サイドチェアとも呼ばれます)。

このイスが「イームズチェア」と呼ばれるのは、多数の名作を作ったイームズのイスのなかでも、代表的な作品だからです。つまり、イームズの中のイームズ、だからデザイナーの名前を冠した通称がついたのです。偉大なデザイナーの代表作「シェルチェア」、通称「イームズチェア」が、いかに価値のあるイスかを伺い知ることができます。

チェア業界の「マクドナルド」

イームズとは、1950年頃を中心にデザインに革命をもたらしたデザイナー、イームズ夫妻のことです。夫のチャールズ・イームズ氏と妻のレイ・イームズ氏の二人がデザインしたイスは、優れたデザインというだけでなく、工業的に生産できるという特徴を持ち、第二次世界大戦後にアメリカ社会が豊かになっていく過程で、素敵なイスに座って毎日を過ごしたいという中流階級の望みを満たしてきました。
ハンバーガーを手頃な価格で手に入れられるように工業化したマクドナルドのように。いわば、シェルチェアはチェア業界の「マクドナルド」なのです。


出所:Wikipedia

https://commons.wikimedia.org/wiki/File:Gitto_Charles_Eames_Aditi.jpg



イームズが残した名作は、シェルチェア、プライウッドチェア、ラウンジチェアなど数多くあり、そのどれもがデザイナーズチェアの中でも誰もが知る名作と言えます。

中でもシェルチェアには、イームズチェアと呼ばれるにふさわしい理由があります。

それはシェルチェアがもたらした衝撃が大きかったからにほかなりません。家具デザインの歴史の中で、シェルチェアが登場する前と後では、イスのデザインや素材に関する考え方が大きく変わってしまいました。それほどシェルチェアの果たした役割は大きく、イームズ夫妻の代名詞となったのです。

イスの歴史を変えた「工業化」と「新素材」

ドイツとアメリカで進んだイス作りの工業化

シェルチェアが登場したのは、今から70年以上も前のこと。その登場からさらにさかのぼる1919年、ドイツにバウハウスという美術大学がつくられました。

この学校はさまざまな美術の分野を一つに統合しようという試みを行っており、建築や家具のデザイナーを多数輩出しました。

バウハウスのデザインの特徴は、大量生産を前提にしているということです。大量に作るには、装飾をそぎ落とし、簡単に作ることができなくてはなりません。

バウハウス以前は、イスは工業的に作られるものではなく、多くの手作りの工程を経て完成されていました。アールデコやアールヌーボーといった様式にしたがって、熟練した職人が手のかかる仕事を重ねてつくられていましたから、一般家庭ではなかなか手の届かない高価な存在でした。

バウハウスは、こうしたイスの伝統から離れ、多くの人の手に届くイスを作ることを実現したパイオニアと言えます。


出所:Wikipedia
https://commons.wikimedia.org/wiki/File:Cranbrook_Academy_Grounds_(303192117).jpg?uselang=ja



そのころアメリカでも、デトロイト近郊にクランブルック美術大学院という学校が設立されました。この小さな学校では、教員が教育に携わりながら、自らの仕事でも業績を挙げることが求められており、多くのデザイナーを輩出しました。その一人がチャールズ・イームズだったのです。

イームズがデザインしたイスもまた、職人の技術ではなく、工業的に生産されることを目指しており、良質なデザインのイスを大量生産することを実現しました。これによってイスは、一般家庭に当たり前にあるインテリアとして普及していったのです。


出所:Wikipedia
https://commons.wikimedia.org/wiki/File:Cranbrook-School.jpg?uselang=ja

新しい素材の発見

シェルチェアが生み出したイスづくりの変化はほかにもあります。それは素材です。当時イスに使われる素材は木や金属が主流だったのに対し、シェルチェアの素材はFRP(繊維強化プラスチック)でした。丈夫で軽いFRPを利用したイスづくりの可能性を示したシェルチェアの登場により、より自由度の高いデザインができるようになりました。
       

FRPは、鉄よりも曲げに対する強さを持ち、しかも軽いという特性を持っています。乗り物のボディーや、ユニットバスなどにも使われるほどの優れた性能を持っています。

しかし一方で、廃棄した際の処分の難しさや、環境に対する負荷が問題となり、その後徐々に別の素材に置き換えられていくことになります。現在販売されているイームズチェアは、ほとんどがポリプロピレンというプラスチックの中でも軽量で成型しやすい素材です。

FRPも素材が改良され、まだ正規品にFRP製の商品は残っています。しかし、今後カラーバリエーションは黒だけになってしまうなど、置き換えられていく運命にあるようです。

シェルチェア以外のイームズ

プライウッドチェア

出所:Wikipedia
https://commons.wikimedia.org/wiki/File:Eames_Wood_Chair.jpg?uselang=ja

イームズが残した作品は、FRP製のイスだけではありません。
プライウッドチェアは、木材で豊かな局面を実現した名作イスです。

当時戦争で骨折した兵士の添木として使われていた成形合板技術を用いることにより、体に優しい曲面を取り入れることに成功しました。

ラウンジチェア&オットマン


出所:Wikipedia

https://commons.wikimedia.org/wiki/File:Eameslounch.jpg

革張りの座面と、木のフレームがぬくもりを感じさせる素材の妙と、いかにも”くつろぐぞ!”という意思を感じるゆったりとした形が、高級な雰囲気でもあり、またちょっと未来的な雰囲気も感じさせます。

身近なイームズ

イームズのイスは、公共のスペースでよく使われています。

タンデムスリングシーティングというイスは、海外の空港などで使われている、飛行機の搭乗口前によくある長いすです。

空港と言えば、日本の空港にもイームズがあります。鹿児島空港のイスです。


鹿児島空港ロビー
出所:Facebook


革張りの高級感とレトロなカラーが魅力的です。

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